ひとりひとりが異なることをお互いに理解しあえる社会へ:聴覚を支援する眼鏡型デバイス「asEars」の開発【高木健さんインタビュー】

Update:2021年7月14日 / Category: News


「ヒンジ部において無線給電、無線通信を行う眼鏡型デバイスの研究」というテーマで令和2年度の学生表彰「東京大学総長賞」総長賞を受賞された高木 健さん(受賞当時 大学院情報理工学系研究科苗村研究室所属、現在 大学院工学系研究科川原研究室在籍)。これまでの研究内容、今後の博士課程へ進学しての展望について伺いました。

まず、高木さんが開発されている「asEars(アズイヤーズ)」について教えてください。研究をすることになった経緯や着想されたきっかけは何だったのでしょうか。

「asEars」は片耳難聴者のための眼鏡型デバイスです。私は右耳が全く聞こえないのですが、大勢の中にいると人の声が聞き取りにくいという私自身の経験を通して難聴者を支援する研究を始めました。

既に市販されている補聴器は、外観や着脱に問題があると感じていたので、個人のデザインの好みに対応できて、かんたんに着脱が可能である眼鏡に補聴器の機能を組み込めば、この問題を解決できると考えました。仕組みとしては、マイクで難聴側の音声を拾い、聞き取りやすくなる音声処理をし、骨伝導スピーカーを用いて聞こえる側の耳に音声を伝えます。

また、眼鏡には折り畳むためにレンズとフレームの間のヒンジがありますが、ここに電池からの給電や処理装置との通信用の配線を通すと、耐久性が弱くなり、外観も損なわれてしまいます。これを解消するため、コイルを眼鏡のヒンジの隣に埋め込む無線給電、無線通信を導入しました。無線給電は安全に2W給電可能で、無線通信はBluetoothに比べ、1/80の消費電力、93倍の通信速度です。相互の干渉を防ぎながら組み合わせることで両立を可能にしました。「asEars」の取り組みは、スマートフォンの次のデバイスとしても期待される眼鏡型デバイスの普及に貢献できるのではと考えています。

「asEars」は、高木さんをリーダーにチームで研究を行われれているということですが、どんな分野のメンバーが集まっているのでしょうか。

ソフトウェアや音響、電子回路の設計、機械工学、眼鏡のデザインなど、様々な分野のエキスパートが集まって活動しています。デザインに関しては、東京藝術大学の方がプロダクトデザインやPV作成(下記リンク参照)、展示会設計も行ってくれるなど、学内外を通じた取り組みです。

現在、課題になっているのはどのような部分でしょうか。

デバイスの使い勝手を良くするために骨伝導を使用しているのですが、音質や着用感に課題があります。イヤフォンは、聞こえ方にほぼ個人差がないのに対して、骨伝導は頭蓋骨を伝い聞こえるので個人の皮膚の厚み、脂肪の量、骨格などによって聞こえ方が違ってしまいます。聞こえ方のばらつきを抑える方法として、強い力で骨伝導スピーカーを固定する方法もありますが、長時間つけていると痛いなどの問題もあって。どう両立させるかということに取り組んでいます。

補聴器は、高齢者や難聴の方向けというイメージがありますが、実際は若年層を含め広くニーズがあるものですよね。普及していない原因はどこにあると思いますか。

補聴器はつければ社会生活がより充実したものになるというが長所がありますが、短所として見た目が良くない、煩わしいという点があります。補聴器を着けるか迷っている方が、これを比較した時に、短所が勝ってしまっているというのが原因のひとつだと思います。そこを「asEars」で解決していきたいなと思います。

最近注目のトレンドはありますか。

「ヒトの耳、機械の耳―聴覚のモデル化から機械学習まで 」(リチャード・F・ライオン著)が話題となっていて読んでいるところです。あとはSNSで補聴器屋さん、耳鼻科の先生、電子回路のモノづくりが好きな人、音声学に詳しい方などフォローしています。「asEars」の研究でも、相互フォローをしている繋がりで、補聴器屋さんに壊れた補聴器をいただいて分解して仕組みを理解するといったことをしました。

「asEars」をインクルーシブな社会の実現という観点からみると今後どのような活動が必要だと考えていますか。

まず、抱えている問題をお互いに理解する必要があると思っています。同じ片耳難聴でも人によって聞こえ方や困る部分は違います。同じ障害だから同じ不便さではなく、ひとりひとりが異なることを知ってもらいたいと思います。これはとても難しい部分でもあって、ずっとそばにいて理解しようとしている家族でもわからないことでもあります。

最近、空間音響をやられている先生が、片耳難聴の状態を体験できる研究を発表されました。このような理解を促進するツールを作ることも、研究者としてできることと思いました。理解しようとしてもしきれない、言葉だけでは足りない部分もまだあると感じています。

今後の夢、目指している未来社会について教えてください。

今後は「asEars」を多くの当事者に届けるために量産していきたいです。そのために骨伝導の音漏れ防止や雑音の中で声を聞き取りやすくする研究を進め、完成度を高めることで事業化につなげたいです。将来的には片耳に限らず、両方が不自由な方にも適用できる技術かと思うので、適切なサポートすることで自分の能力が発揮できる社会になったらいいなと思います。また、難聴支援は軸としつつエンタメ、音楽再生などの利便性向上として役立てるのも一つの方向として考えています。

「asEars」紹介動画

English ver.

令和2年度学生表彰「東京大学総長賞」の選考結果について
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/students/events/h12_03.html

(関連リンク)
https://www.elephantech.co.jp/pickups/interview-ken-takaki/
https://www.marubeni-sys.com/infinite-ideas/3dprint/asears/index.html
https://redshift.autodesk.co.jp/asears-sound-glass/
https://plus.paravi.jp/business/000303_2.html
https://www.ntv.co.jp/nextcreators/backnumber/creator152.html