世の中のアイデアを実現できる基盤づくりを。社会で役に立つ数学の理論【小原光暁さんインタビュー】

Update:2021年5月10日 / Category: News


価値交換工学RAである小原光暁さん(情報理工学系研究科数理情報学専攻)に、ご自身の専門分野や価値交換工学 萌芽研究のテーマについてお話を伺いました。

-ご自身の専門分野について教えてください。

数理最適化理論を専門としています。社会で役に立つ数学の理論を作りましょう、という学問のひとつです。例えば、毎月の生活費が決まっている時、どこにいくら予算を割り振ると満足度が一番高く幸せなのかという課題があるとします。これに対して数理最適化では、満足度を数学的に上手く数量として表して、それを最大(最も満足度が高くなる)にする予算の配分を求めることを考えます。
今のはあくまで例ですが、現実の問題を数学的に捉え世の中にある多くの課題について満たしたい条件や最適化したい評価指標を決めて最適化問題として定式化し、よりよく目的を達成する解を求める方法を研究しています。これはモデリングやアルゴリズムを考える理論研究ではあるのですが、実社会での活用を念頭に置きながら研究するのが特徴です。

-このテーマを研究することになった経緯は何だったのでしょうか

元々数学は好きでしたがバドミントンやレスリングの部活にも熱中していたので本格的に数学に取り組み出したのは大学に入ってからです。数理最適化理論は、数理的な要素を持つ研究でありながらもその応用先を実社会の問題解決としているところに魅力を感じました。

-部活に熱中されていたということでしたが、スポーツに取り組まれる中で数学的なことが浮かんだりするのですか?

レスリングは大学で始めたのですが数学的なところがたくさんあります。体型や得意技に応じて攻め方・守り方も変わってくるため、まず自分や相手の特徴を知るというフェーズが第一にあります。その上でタックルをしてディフェンスされたら左右どちらに回る、あるいは相手がこうしてきたら立ち上がるとか、パターン分けをして取るべき行動のフローチャートを構成し実践できるように練習をします。パワーも大事ですが考えることも必要でまさに与えられた条件の下で最適解を見つける競技だといえます。部活の後輩はレスリングのことを100mダッシュしながら将棋を指しているようなもの、とよく言っているのですが自分もそう思います。

-価値交換工学 萌芽研究のテーマである「分析と制御を支える基盤技術:幾何学的な最適化アルゴリズムの深化」について、具体的な内容を教えてください。

ネットワークやビッグデータと呼ばれる一般的なデータ管理で扱うことが困難な巨大なデータの集合などから本質的な情報を抽出する「分析」とそれらの情報に基づいて思い通りの動きを実現する「制御」の 2 つは、価値の生成や交換には欠かせません。そしてこの分析や制御を実際に行う際に最適化問題を解く必要が自然に生じます。この意味で数理最適化理論は多種多様な価値交換の実現を支える基盤技術であると考えています。

 私が取り組んでいるのは幾何学的な最適化問題に対するアルゴリズムの開発です。従来の最適化理論では通常、最適化したい変数が存在する空間として2次元平面や3次元空間といった直線的で素朴なものを想定します。一方、幾何学的な最適化問題では最適化したい変数が属する空間として球面やドーナツ型、馬の鞍のような「曲がった」空間を考えます。これは従来より一般的な設定であり、世の中の難しい問題に挑戦できる、あるいは満たしたい条件をより正確に満たしながら解くことができるモデリングです。この問題に対して性質の良い解を求められるアルゴリズムを開発・改良をすることを研究テーマとしています。

数理的な要素を持つ研究でありながら応用先は実社会の問題解決であり、他分野と接点が持てる。これが魅力であり強み。

-身近なもので応用例はありますか。

数理最適化理論に関していうと、ポートフォリオ構築など金融業界で利用されています。また、ロケットや人型ロボットの制御、ネットワーク上のクラスタ分析などにも使われていますね。自動運転では車載カメラを通して人や青信号を認識する画像認識の技術が使われていますが、これも背後では最適化問題を解くことで実現されています。身近なものも実は裏側に最適化理論が使われていたりするんです。各分野の専門の方たちは何をどのように最適化したいかというのが具体的に決まっていてモデル化しているわけですが、どのようなモデリングだと解きやすいのかを予め調べることと実際に最適化問題を解く手法を開発する部分を私たちが担っています。

ひとつの応用先に限定されず多くの他分野と接点を持てるというのは抽象化された理論研究ならではの強みだと思います。以前にも、人型ロボットの研究をしている友人から歩行制御に使われている幾何学的な最適化について相談に乗ってほしいと言われたこととがあります。それまで私はロボティクスに幾何学的な最適化理論が使われていることを知らなかったのでとても印象的でした。科学技術は理論と応用が切磋琢磨して進歩するものだと思います。私の行っている理論研究が予想していなかった応用先まで広がり、新しい社会実装が拡がるかもしれないというのはとてもわくわくします。

-研究テーマで考えた、価値交換について教えてください。

私が扱う価値交換は多様なアイデアの実現を支える数理的な基盤技術です。世の中を良くするための価値交換は様々な文脈で語られていますが、数理最適化はそれらが適切に実現するために必要不可欠な技術だと考えています。私たちの研究は社会から直接見えやすいわけではありませんが、世の中の役に立ちたいという思いが根底にあるのは同じです。普遍的な技術の確立を通じて、多彩なニーズに自由な発想でアプローチできる未来を目指したいと思っています。

数理最適化理論がどこに応用されているかというのは意識的に見ていますが他分野の最先端の技術について詳しい訳ではないので、何が必要とされているのか悩むこともあります。他分野の方々との交流から彼らが何を大事にしているのかを知ることもこの活動に期待していたことのひとつです。実際に多くの分野の方々から技術の使われ方を聞くことが出来て数理モデルを考えるモチベーションに繋がっています。