無線給電によりもたらされるIoTの更なる発展。電力という壁を解消する大きな一歩。【笹谷拓也特任助教インタビュー】

Update:2021年9月28日 / Category: News


Nature Electronicsで表紙を飾った無線給電部屋 / 提供 :笹谷拓也

外出先で持ち歩く機器の充電が切れて焦ったり、身近なものがより機能的に動けばと感じた経験はないでしょうか。そうした身の回りにあるプロダクトを使いやすくスマートにするための障壁のひとつに電力があり、東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻 笹谷特任助教は、その壁を解消する新たな一歩となる研究に取り組んでいます。この度、Nature Electronicsに「Room-scale magnetoquasistatic wireless power transfer using a cavity-based multimode resonator」と題した論文が掲載され、2021年9月号の表紙を飾りました。

-今回、Nature Electronicsに掲載された研究について教えてください。

室内のどこにいても無線給電が可能な部屋についての研究です。部屋に入るだけで、ケーブルを使わずにスマートフォンやランプ、扇風機、照明など複数の機器に同時に電力を供給することができます。今売られているスマートフォン用の充電パッドとは異なり、壁や床、天井に金属シートや電子回路を埋め込み、部屋全体を充電器にしました。磁界を使って電力を送っているのですが、壁に広がって流れる電流を用いて空間全体に広がる磁界の分布を作り、さらにその磁界を操作できる仕組みを考えたことが、部屋全体への給電が実現した鍵です。さらに給電システムが人体に与える影響についても調査し、国際的な安全ガイドラインの基準値内に収まっていることを確認しています。

-笹谷先生の研究のコアとなっていることを教えてください。

あちこちにある小さなコンピュータを、電力的にも情報的にも繋げるネットワークを作ることを目指しています。生活空間の情報ネットワークに関しては無線通信技術が発展して、Internet of Things(IoT;モノのインターネット)などの、身の回りのちょっとしたものにセンサなどを入れて賢くする構想が生まれるきっかけになりました。しかし、電力に目を向けると、あちこちにある機器に自在に電力を送る方法はまだ確立されておらず、IoTの発展の足かせとなっています。今回発表した空間をカバーする給電技術は、この足かせを解消するための大きな一歩です。

また、空間中には情報ネットワークにつながったコンピュータが置かれるようになりましたが、生体内や土の中、水の中など、電力と情報へのアクセスが難しいことからコンピュータが入り込めていない領域がたくさんあります。将来的にはこのような場所をもカバーする電力と情報のネットワークを構築し、さまざまな環境にある機器が協調して動作できるような基盤を作りたいと思っています。


スマートフォンや扇風機、照明など複数の機器にワイヤレスで同時に電力供給が可能 / 提供 :笹谷拓也

新しいアプローチにより実現した技術。どこでもアクセスできる電力と情報のネットワークで新たな価値を提供できる未来社会。

-現在の研究に至る経緯を教えてください。

東京大学川原研究室では、10年程前から平面をカバーする無線給電技術の研究を行っており、私も研究室のメンバーと協力しながら、平面のどこにいても電力が受け取れるアンテナ設計の方法や、あちこちに簡単に敷設できる無線給電シートの研究に取り組んできました(※下記写真参照)。これらは、たくさんの充電パッドを平面状にならべるような技術で、平面に置かれた機器を充電することはできますが、空間をカバーすることはできません。そこで充電パッドをたくさん並べるという方法ではなく、空間自体を好きなように作れる場合は、どのような方法が取れるのだろうかと考えました。そして空間全体を囲うような構造により磁界を生成する、今回の研究のアプローチに取り組み始めました。そして基本原理の考案やシミュレーション、実験環境の構築を経て実証実験を行い、今回の論文としてまとめました。実は二十世紀初頭にニコラ・テスラが地球全体を共振器として見立て、地球規模の無線給電を行う構想を提唱したとされています。このテスラの構想自体は、電力効率や安全性の面から実現が困難であったことが後からわかっていますが、今回の研究成果はそれらの問題点を解決した部屋スケールでの実現であると評してくれているメディアもあります。

※給電領域を自由に構成可能な2次元無線給電システム
(JST ERATO 川原 万有情報網プロジェクトExhibition) / 筆者撮影

-無線給電についての論文がNature Electronicsに掲載され、表紙にも選ばれました。世界レベルのジャーナルであり、とても大きな成果のひとつだと思いますがいかがでしょうか。

Nature Electronicsはエレクトロニクス分野全体で選りすぐりの研究成果が掲載される雑誌で、無線給電の研究が掲載される例もそう多くなく、ある意味手探りでの挑戦だったので、結果的に掲載されて嬉しかったです。専門分野内の研究者だけでなく、科学者全体が読むジャーナルへの掲載はひとつの目標でもありました。技術としての新規性や数値に現れる性能向上だけでなく、暮らしへの影響がみえやすい点で一般的にもインパクトがあったかと思います。誰でもどこでも簡単に電力にアクセスできるような技術を通じてインクルーシブ社会の実現に貢献できればと考えています。

-今後、更なる進展を目指して取り組んでいきたいことは何でしょうか。

今回の給電技術を生活空間や産業などのシーンで活用していくことはもちろんですが、次のステップとして屋外など、今回の技術だけではカバーできない領域に電力と情報のネットワークを展開する方法についても考えていきたいです。また、今回の技術はシステムの範囲内にある機器を全部を充電するものですが、お金を払った人にだけ電力を送るというような価値交換の考え方を取り入れることで更なる研究の発展に尽力していきたいです。

無線給電は身の回りの機器に自動で電力が供給される便利さにとどまらず、エネルギー分野の課題の解決や新技術の発展につながる研究であることを実感しました。どんな場所からもアクセスできる電力と情報のネットワークが構築されることで、IoTがさらに豊かになる基盤ができる。そこから創造される新たな価値や未来はどんなものになるのでしょうか。今後のエネルギー分野の更なる飛躍に期待が高まる取材となりました。

Takuya Sasatani, et al., Nature Electronics (2021).

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https://www.takuyasasatani.com
https://www.nature.com/articles/s41928-021-00636-3

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