身近なツールで心に自信を。バーチャルメイクがもたらす自分らしい姿。【Toby Chongさんインタビュー】

Update:2021年6月9日 / Category: News


価値交換工学RAであるToby Chongさん(情報理工学系研究科創造情報学専攻 五十嵐研究室)。
ご自身の専門分野や価値交換工学での萌芽研究のテーマについて、お話を伺いました。

-ご自身の専門分野について教えてください。

HCI(Human Computer Interaction)が専門分野です。HCIは、人と機械の関わりを考える研究のひとつです。その中でもAR(拡張現実)等を利用して特別な専門知識や技術がなくても誰でも利用できるアプリケーションの開発に携わっています。

-HCIに興味を持たれたきっかけは何だったのでしょう?

学部1年生の時に五十嵐先生(博士と修士の指導教授)のもとでアルバイトを始めたのがきっかけです。続けるうちにどんどん面白くなっていき、自身の研究につながりました。内容は様々でしたが、一例としては、レストランの効率的なレイアウトを実証をしました。これは、大きな飲食店の時間帯で変化する客層を考慮して、店内のレイアウトを検討するというものです。テーブルとテーブルの間をワゴンで通れるようにしたいというオペレーションや、お客様をより多く収容するにはどうするかという課題に対応できる最適なレイアウトを探すため、バーチャルに店内を再現して、VRゴーグルでデザイナーとレイアウトを動かしたりする作業をしました。

-学部1年生の時に日本に留学に来られたとのことですが、初めはHCI分野を学ぶ予定ではなかったということですか?

そうですね、日本へ来る前は水中で動くロボットを研究したりしていました。来日した当初はロボコンに参加したり、ロボティクス分野の研究に取り組む予定でしたが、五十嵐研での研究活動が深まっていくうちに、HCIが自分の研究テーマになっていました。今のようにHCIを専門にするとは想像していませんでしたので、五十嵐先生との出会いは貴重だったと思います。

-価値交換工学での萌芽研究の研究テーマが「High Fidelity Makeup Customization and Simulation for Makeup Virtual Try on」とのことですが、具体的な内容を教えてください。

自宅で気軽にメイク用品や自分に似合うメイク方法のシュミレーションができるシステムです。コスメカウンターへ直接行くのが難しい、また、現在の情勢ではカウンター自体を閉めざるを得ないこともあります。そんな時に役に立つシステムです。

-メイク用品の色などを試すメイクアップシミュレーションはブランドサイトなどでよく見かけますよね。既存のものとの違いは何でしょうか?

メイクアップシミュレーションは、既に世の中にあるシステムではありますが、私の研究の1番大きなポイントは、十分なリアルさがあるかという点です。既存のシステムでは本来の発色や質感というのが、どう再現されるのかまでは正確にわかりません。好みや似合う色を見つけて購入するのには役立つかもしれませんが、実際に購入し日常の中で使ってみると印象が違ったということもよくあると思います。

-既存のメイクアップシミュレーションを改良する訳ではなくで、新しく開発するというイメージですか。

はい。既存のものは、アーティストの方に調整してもらい、リップならば唇の上に最も奇麗に再現される形で色が載るようにしています。しかし、同じリップでも人によって描き方が違いますし、膨らんでいる唇に見せたい時、大きめに描く方もいます。また、一口にメイクと言ってもベースやパウダーといった過程があり、違うブランドのものを使用していることも多いですよね。実際に暮らしの中でどう見えるかを再現するには、こうした個人差や使用方法、組み合わせといった点を考慮した十分なリアルさを追求することが必要です。

私の研究では、実際の商品をモデルの方につけてもらい複数のカメラで撮影します。それを様々な角度でデータ化します。人の顔は平面ではないので、3Dモデルにするとリアルさが増すんです。実際メイクをする時に沿った手順で重ね方などの細かいやり方も指定できたり、異なったブランドの商品を使用することも可能です。また、海に行った時と室内で過ごす時は見え方も違うので、それをコンピューター上で、状況に合わせて変化することもできます。太陽光の下でどう写るか、艶やグリッターの表現等もできるといいなと思います。

よりリアルな仕上がりを求めること。それがユーザーにとっての価値となる大事な部分。

-このテーマに興味を持ったきっかけはなんですか?

元々はトランスジェンダーの友人がいて、その社会課題に興味をもち、自分の技術で出来ることはないかと思ったことがきっかけです。トランスジェンダーの人たちの中には自分の外見と心が一致しないこと自体に苦痛を感じる人がたくさんいます。また、本来の性別と見た目が違うということで、公共のトイレなどが利用しにくかったりします。外見と性別を近づけることが出来れば、差別的な言動を受ける可能性も少なくなります。もちろん差別をなくすことが理想的ではありますが、社会の認識を変化させるには時間をかけなければなりません。メイクを通じて生活をしやすくする技術によって、より早くその一部を解決できる可能性があると思っています。

トランスジェンダー向けのメイクについては、修士論文の時から取り組んできたのですが、トランスジェンダーの人にとってメイクをより上手にできるようになるということは環境面でハードルがとても高いのです。男性の骨格を持っている人が女性として見られるためにどうすれば良いのか考えたとき、女性の骨格の人と同じメイクをしてしまうとより男性的に見えてしまうことがあります。そのためメイクを工夫しなければなりません。しかし、家族の理解がない人の場合には家で練習することが難しかったり、女性誌を買っても載っているのは女性の骨格のためのメイク法なので参考にならないなど、環境や情報に制限があります。

このような課題解決のためには、既存のシステムによる本人の好みや似合うかどうかの選択に足りる情報を与えられるだけでは不十分で、他の人が見ても女性と見えるところまでクオリティを上げないとトランスジェンダーの人たちも含めたメイクを必要としているユーザーは納得しないし、そこが大事な部分だと考えています。

-研究テーマで考えた、価値交換について教えてください。

バーチャルメイクで現実により近い状態を再現して、なりたい顔になるためにはどうすればいいかを提案していければ、それは価値にもなるし、購買行動にも繋がると思っています。自分の気になる部分をカバーしなりたい姿に近づくことは、心地よく毎日を過ごすために大切な要素だと思います。また、環境問題の側面からもイメージと合わない化粧品を購入し無駄になることの予防にもなります。

難しい問題を解決するには、社会を変える必要があります。将来的には変わるという希望は持っているが、今の人はどうするという課題がある。その課題を可能な限り僕たちの技術で改善できるといいなと思っています。

-ご自身が最近注目されているトレンドはありますか?

メンタルヘルスケア に興味を持っています。日本では、カウンセリングの料金が国民健康保険でカバーできないことなどの問題が気になっていました。最近では、機械学習やAIサービスを用いた簡単にアクセスできるメンタルヘルスケアサービスが増えてきているので興味を持っています。アメリカやイギリスでも普及してきていますが、悩みの解決にチャットボットを使用するのには、実際の人に話さなくて良く機密性が保たれる、恥ずかしくないなどのメリットがありますよね。24時間チャットボットと話ができれば心が楽になる方もいると思います。このようなヘルスケア全般に関わることについても自分の技術を最大限活用していきたいと考えています。

バーチャルメイク紹介動画

<関連リンク>
https://www.tobyc.graphics/
https://sites.google.com/view/flyingcolor