価値交換工学では、サーキュラーエコノミーを注力領域の一つとして掲げ、複数の研究者がさまざまな視点から研究を進めています。

今回は、河瀬特任准教授が現在取り組んでいる『メーカーは第三者が競合する市場で認定中古品を販売すべきか?』というテーマについて、河瀬先生と、一緒に検討を進めている李さんのお二人にお話を伺いました。

宮平(以下――):まず、お二人の所属と専門について教えてください。

河瀬特任准教授:情報理工学系研究科数理情報学専攻の河瀬です。最適化を中心に数理的な研究を行っています。
李氏:工学系研究科技術経営戦略学専攻のです。循環経済市場と企業戦略についての研究を行っています。

――メーカーが公式認定中古品の販売に参入するか、という問いは実社会に近くとても興味深いですね。今あるどのような課題を、どう解き明かすものなのか、もう少し詳しく教えてください。

河瀬氏(以下、河瀬):メーカーによる公式認定中古品の販売は、中古市場が急速に拡大する中で注目を集めています。例えば、Appleはリファービッシュメントプログラムを通じて、2022年に中古スマートフォン市場で49%のシェアを獲得しました。一方で、メーカーが中古市場に参入する際には、自社の新品市場への影響やゲオ、ブックオフ、メルカリなどの第三者プラットフォームとの競争といった課題が伴います。本研究では、ゲーム理論モデルを用いて次のことを明らかにしています。

  • メーカーが公式中古品販売に踏み切るべき市場条件
  • メーカーが公式中古販売に踏み切った場合と踏み切らなかった場合において、新品価格、公式中古品価格、第三者中古品価格がどのように均衡するか
  • 消費者が中古品を高く評価することが、メーカーの公式中古品販売を誘因し、結果的に中古市場の活性化とサーキュラーエコノミーの推進に繋がること

――なぜこの視点・状況に着目したのでしょうか?

李氏(以下、李):背景には中古市場の急速な拡大があります。スマートフォンやデジタルデバイスの中古市場の成長率は8.8%(2023年,年平均)で、2027年には4億台以上が取引される見込みです。この成長に伴い多くのメーカーが公式認定中古品の提供を始めていますが、中古市場での利益最大化・自社新品市場への影響等についての分析が十分ではないため、参入を躊躇するメーカーも多く、中古市場に参入している製品は限られています。
しかしリユースはサーキュラーエコノミーの実現において最も有効な手段とされていることから、メーカーがより多くの中古品を提供できる状態を作ることが理想です。また、メルカリなどのサードパーティと協力することで、リユースの環境性や経済性も向上していくことが期待されています。このような背景から、本研究では、メーカーが公式中古品市場に参入することで、新品市場や第三者プラットフォームとの競争構造がどのように変化するかを数理モデルで解明しようとしています。

――本研究には、どのような分析手法やデータが使われているのですか?

河瀬:本研究では、メーカーが公式認定中古品を販売する最適な条件を明らかにするため、ゲーム理論モデルを用いて市場分析を行いました。このモデルは、メーカーと第三者プラットフォームが競争する市場において、新製品・公式中古品・第三者中古品の価格設定や販売戦略がどのような均衡となるかを解析します。特に、消費者の支払意思額の分布や市場構造がメーカーの利益最大化にどのように影響するかを詳細に評価しています。

――具体的には、どのように社会や企業に役立つ・影響を与えるのでしょうか?

河瀬:研究結果は、メーカーが公式中古品販売への参入によって得られる利益と、新品販売への影響等のリスクを定量的に示すことで、新たなビジネスモデル構築への指針となります。メーカーとメルカリなどのサードパーティーが協力することで、より経済性や環境性を向上させる解決策が見つかるかもしれません。また、中古品が流通することで製品寿命延長と廃棄物削減効果が期待されるため、環境負荷軽減にも寄与します。一方で、新品需要とのバランス調整も重要な課題として浮上します。

――この研究とサーキュラーエコノミーの関係についてもう少し教えてください。

李:サーキュラーエコノミーの観点では、製品や部品の価値を維持しながら循環させることが重要で、メーカーの公式認定中古品販売はその方法の一つです。本研究では、認定中古品販売が製品寿命の延長や廃棄物削減にどの程度寄与するかを定量化することで、企業が中古市場に参入する際の判断材料を提供します。また、本研究は消費者の認定中古品への好意・信頼の向上が、新品の競争力を維持しつつ、中古市場での利益を拡大できることを示しています。これにより多くのメーカーが安心して中古市場に参入しやすくなれば、市場全体で循環型経済の促進と持続可能性政策の影響評価にも重要な役割を果たすと考えられます。

――サーキュラーエコノミー実現において、消費者・生産者(メーカー等)・第三者(メルカリ等のサードパーティー)の参画は今後どのような重要性をもつと考えますか?

河瀬:消費者はリユース文化への理解と参加、生産者は製品設計段階からリサイクル可能性を考慮した設計、第三者プラットフォームは効率的な流通ネットワーク構築という役割分担が必要です。これにより、資源循環による環境負荷軽減と、経済的な発展とを両立できるような市場を形成することが重要です。

――このテーマに関連する新たな課題や可能性として、今後の市場動向で注目していることを教えてください。

河瀬:​​メーカーが公式中古品販売を進めるには、市場からの回収が不可欠であり、効率的な回収体制構築が鍵となります。リサイクルボックスやオンライン買取サービスに加え、メルカリのようなプラットフォームを活用することも重要になると考えています。また、「デジタル製品パスポート(DPP)」を導入することにより、製品ライフサイクル全体のトレーサビリティを確保することも重要となります。これにより、製品のライフサイクル全体を通しての価値やコストをどのように分配するかという、循環経済の基盤を構築することが重要となります。
さらに、中古市場のプラットフォーム運営者は、トレーサビリティや品質保証という付加価値を提供し、消費者からの信頼性向上に貢献する必要があります。このような取り組みは、新たなビジネスチャンス創出とともに、持続可能な社会実現への道筋となるでしょう。

(宮平)

RIISE価値交換工学|Update: 2025.1.10