価値交換工学の研究者であるAri Hautasaari特任准教授(情報学環)、学際情報学府修士課程1年 中條麟太郎氏が、2023年12月11日〜13日に実施された「HCGシンポジウム2023」において最優秀インタラクティブ発表賞を受賞しました。

共同で研究を行っている藤原未雪氏(mercari R4Dリサーチャー)と共に、3人での受賞です。本記事ではお三方へインタビューをし、研究について詳しく伺いました。

本研究は、フリマアプリのコメント欄でユーザーが希望するコミュニケーションスタイルをバッジとして提示することが、利用者同士のコミュニケーションにどのような影響を与えるのかを研究したものです。

▼この研究を一言で表すと?

(藤原)人によって取ってほしいコミュニケーションスタイルはバラバラですが、それを整理する機能が現時点でフリマアプリにはありません。バッジという交通整備を通して誰かが嫌な思いをすることをなるべく減らそう、という試みです。

(中條)オンライン上では相手の事・様子が分からない、つまり情報が少ないことで発生するミスコミュニケーションがあります。そこに相手を理解する「手がかり」(今回の場合、バッジ)という情報を付け足す事で、お互いがいわばコミュニケーションという「運転」をより円滑にできるのではないかという考えがベースとなっています。

(Ari)(補足として)例えば、AIが自動で表現を書き換えたり、悪口を止めよう、ということではなくて、お互いが(不必要に)傷つかないような手助けをする、但し最後は人に決定権があるという点も一つの特徴です。


▼本研究の強みや新規性、ユニークな点を教えてください

(一同)コミュニケーションスタイルを誘導させる研究自体も少ないですが、そこに更に「ヨソの人(※)」と「オンラインで」かつ「Publicな場面で」という点が加わったことはユニークなポイントと言えるかと思います。

(Ari)また、ただのコミュニケーションではなく、コストとペナルティが存在する「オンラインマーケット上の価格交渉」という点も特異的な点です。個人の会話でのミスコミュニケーションは人間関係が悪くなるという「ふわっとしたコスト」ですが、C2Cマーケットでは、ミスコミュニケーションが利用者・企業側などみんなの「明確なコスト」になりますよね。

(※ 日本人の対人関係モデルは、「ウチ・ソト・ヨソ」モデル(三宅1994)が有名である。自己を中心とした同心円の形で心理的距離で分けた3層が想定されている。「ウチ」は、自己とごく親しい人(家族や親友など)、「ソト」は、上司や大学の先生、同僚など顔見知りの人、そして、一番外側が「ヨソ」で、普段関係はないが、何かのきっかけで一時的に関わる人(電車で隣に座った人など)と説明されている。- 三宅和子(1994)「日本人の言語行動パターンー ウチ・ソト・ヨソ意識」,『筑波大学留学生センター日本語教育論集』9, pp. 29–39.)

▼苦心した点やこれからクリアしなければいけない点はなんでしょうか?

(Ari) 国際的な貢献に繋げよう、論文を英語で書こうとした時に、本研究を理解するうえで重要な「ウチソトヨソ」というコンセプトを、それが無い海外でどうやって伝えるかは難しいですね。

(中條)あとは、これまでの研究の系譜でどう位置づけるか、ということも考えましたよね。先行研究がある積み上げ型の研究とは違い、アイディアから生まれたものゆえに、これまでの研究の系譜に乗せて、どういう説明ができるか、魅力を伝えられるかといった点です。特にオンライン環境(でのテキストコミュニケーション)における理論は存在するが、実装という点では無い。「ウチソトヨソ」はテキストの世界では変わるのではないか、枠組みまで提案することになりそうな研究かも、とも考えました。

▼シンポジウムについて現地で感じた事はありますか?

(中條)こんなに幅広く、いろんな角度からコミュニケーションをとらえている人が多くいるんだ、ということです。また、インクルーシブxコミュニケーションがすごく盛り上がっていることを感じました。

(藤原)これまで私は「言葉」にフォーカスしてきましたが「身体」を含めた、生身の人間を使った(コミュニケーションの)研究がここまで進んでいるんだという驚きがありました。

(一同)障害科学と情報や技術の組合せといった研究も多かったですね。今世の中に広く存在している不備のせいで発生する(心を含めた)傷を減らす、テクノロジーの力で傷付く人を減らすというような。この場合、不備は人の不備ではなく、社会の不備、ですからね。


▼Human-Computer Interaction (HCI) を専門とするAriさん中條さんと言語学のエキスパートである藤原さんですが、そもそも出会いがRIISE 価値交換での活動なんですね。RIISEだからできたこと、共同研究である面白さを感じる時、というのはありますか?

Ari)「0か1か」シンプルに、RIISEが無ければ生まれなかった研究です。このような研究が生まれること自体に、価値交換工学で活動を進められることの面白さを感じます。

中條)一つは、色んなディシプリン(※学問・分野)を持った人が集まった中でコミュニケーションがとれる場であること。もう一つは、メルカリというフィールドがあること。この研究も、メルカリでの価格交渉という具体的な課題があったからこそできたと思っています。

藤原)Ari先生が言った「0か1か」はまさにその通りで、自分が描いた考えや夢を具現化できたのは、2人がいたからです。例えば私が突飛なアイディアを持ってきても、2人が実際に実験デザインを考えてくれたり、そこに心理学的な考え方を加えて質的なデータのみではまかなえない厚みにできたり。そして、わいわいしながらデザインと実験を行ったり来たりして、「もみもみしながら」一緒に考えていく工程が素直に楽しいです。


▼最後に、本研究の今後の目標や展望を教えてください!

(Ari)国内で認めてもらえたので、次は海外での論文公開を目指します。

(中條)研究だけでとどめるのではなく、実装が重要だと思っています。実験室実験(短いスパンでの変化)から、次のステップとしてShareWel(東大学内の不用品・遊休資産の共有サービス)で実装しどういう挙動を示すか(長いスパンでの変化、実社会での変化)を見るのは楽しみですね。


インタビュー中もリラックスした雰囲気で、お互いへの信頼やテーマに関する探求心、そして遊び心がこちらまで伝わってくるお三方でした。これからも3人がどんな成果や新たな研究を生み出していくのか、本当に楽しみです。

RIISEでは今後も様々なプロジェクトを紹介していく予定ですので、是非引き続きご覧下さい。

(宮平)

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RIISE価値交換工学|Update: 2024.1.19