2021年5月に開催された国際会議CHI’21(※)で「 CHI’21 People’s Choice Best Demo Honorable Mention Award」を受賞された宮武茉子さん。(工学系研究科電気系工学専攻 関谷勇司 研究室所属)

受賞された「Flower Jelly Printer for Parametrically Designed Flower jelly」の研究のきっかけやFlower Jellyを作り続けた日々、また、現在は自身の可能性を探究するため調理師学校への入学、SNSでの発信やフードトラックでの物販等、活躍のフィールドを広げ続けている宮武さんへ現在の心境をお聞きしました。

※The 2021 ACM CHI Virtual Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI’21)  ヒューマン・コンピュータ・インタラクション(Human Computer Interaction)分野の最も重要な国際会議の1つ。CHI(カイ)と呼ばれ2021年は5月8日〜13日までオンライン開催されました。

-まず、研究されている内容について教えてください。

料理×デジタルファブリケーション技術について研究をしています。3Dプリンタやロボットを組み合わせて新しい料理を作るという試みです。「今回は、フラワーゼリーというスイーツを、3Dプリンターを使って造形する研究を発表しましたが、これまでも学部4年生の時はホイップクリームをロボットで3Dプリントし、デコレーションする研究をやりました。ハードウェアとソフトウェアどちらも好きなので、両方の要素があって楽しいです。

-ロボットサークルに所属していたと伺ったのですが、昔からロボットに興味があったのでしょうか?このテーマを研究しはじめた経緯は何だったのでしょう?

もともとDIYや料理などのものを作る工程が好きでした。大学へ入学して新たに学べるものをと思ってロボコンのサークルへ所属しました。ロボットは機械と回路と制御の3つで構成されるのですが、機械の班に入って設計、3Dプリンタやレーザーカッターなど工作機械の使い方を習いました。1年生の時にここでモノづくりの基礎を学ことができたことが今に繋がっています。

それからしばらくしてロボットで何がしたいかと考えた時にだした答えが「料理」でした。最初は企業インターンにいった会社で朝食ロボットを作る機会をいただいて、それがTodai To Texas(東京大学発のチームを、米国テキサス州で開催される「サウス・バイ・サウスウェスト(SXSW)」へ派遣し、グローバルに挑戦することを支援するプロジェクトhttps://todaitotexas.com/)に通ってSXSWで展示した後、ホテルの朝食ブッフェで実証実験までやらせていただきました。

プロジェクトが進むと同時にロボットメインじゃなくて料理側からも考えたいという思いが出てきて。料理をより効率的に提供するためにロボットを作るのではなくて、ロボットを使うことで実現できる新しい料理が出来るのではと考えるようになりました。

-今回、CHI’21 People’s Choice Best Demo Honorable Mention Award受賞のテーマは「Flower Jelly Printer for Parametrically Designed Flower Jelly」でした。フラワーゼリーを3Dプリンタでデザインしようという発想はどこから来たのでしょうか?

食にまつわる研究をしているメンバーが雑談し、アイデアをキャッチできるようにslack(チャットツール)を立ち上げて情報交換を行うようにしていました。その中で川原先生がフラワーゼリーを紹介して下さったことがきっかけです。それが昨年の5月頃、新型コロナの影響で帰省した際に3Dプリンタを購入して、改造に目覚めていた時期でした。これで出来るかもしれないと、研究の発想が生まれた時でした。論文を国際会議に通すことも目指し、全力でやってみようと始めました。

-研究を進める上での壁となったことを教えてください。周りの方の反応や技術的に難しかったこと、またそれをどのように乗り越えたか等お伺いできますでしょうか。

朝食ロボット等の経験があったので、1ヶ月ぐらいで初期のプロトタイプはできて、このまま進めてもちゃんとしたモノができるとわかってきました。しかし、最初は料理×3Dプリンタという取り組みに自信がなく、これが研究と認められるのかなと。川原先生にアドバイスいただいたり、slackに進捗や気付いたことを投稿して、フィードバックをもらいながら進めました。以前、本郷テックガレージ(東京大学の学生が技術的プロジェクトを行うことができる施設https://www.hongotechgarage.com/)に参加した際に顧客インタビューやSNSで自分のプロダクトに関心がありそうな方とコンタクトを取った経験があったことはとても活かされたと思います。

論文にするにあたり写真等の見せ方は普段から気をつけて撮るようにしていました。光が綺麗にあたる角度とか、ガラスに乗せたら透明感がよく伝わるな、といったことが段々わかってきて記録とフィードバックのためにslackにも写真を投稿していました。レシピも見た目の白さが気になって砂糖入れたら透明になったとか、粘度が高い方が上手く出来るなと気付いて改良していきました。日々の積み重ねで完成度が上がったと思います。母がお花の教室に通っていて花びらの構造や色に詳しかったので家族からの意見をもらったりもしました。

フード3Dプリンタ自体は手を伸ばせば届くぐらいの値段で市販されています。でも、これを使ったインパクトのある美味しい料理は、まだ出てきていないと感じていて。3Dプリントをすると良いことは何かか、見た目はもちろん美味しさの部分もきちんと伝えられるよう意識して進めました。

-材料やレシピ、見せ方の工夫といった工学側ではない努力が日々あるのですね。文献としては食べ物のものを読むことが多いですか?

そうですね、研究だけじゃなくて料理レシピ本にもアイデアをもらいましたね。例えば、透明な料理のレシピを載せている方の本があって、アガーを使ったゼリーは砂糖を入れるとより透明になるといった配合を学んだり、掲載されている写真も参考になりました。

技術だけではなく美味しいことも伝える、五感に訴えるデモ。
食の世界で実際に役立つ提案を。

-CHI’21のデモ発表の様子や、その時の手応えを教えてください。オンライン上で美味しそうとか口に入る感覚を伝えるのってすごいですよね。

実は論文発表の方が緊張していて、デモ発表の場で実演した方がより伝わるのではというアイデアは前日に思いつきました。デモの流れや効果的な繋ぎ方は鳴海先生にフォローいただき無事行うことができました。

技術だけではなくきちんと美味しいということを伝えるために、その場で作ることでライブ感を見せて、最後に自分が食べるということをしました。論文の写真だけでは美味しそうに見えても実際にはどうなのかわからないですよね。そうではなくて食べても美味しいというのを証明したくて。

論文や技術が優れていれば研究界隈では認められるけど、料理界隈で認められないと世の中には出ていかない。それは残念だと思っていて、パティシエの方もこれを使いたいと感じてくれるようにしたいです。今はなかなか難しいですが、今後はイベントで実際に食べてもらえる機会が作れたらいいなと思ってます。今回の受賞は、論文を書く段階から先輩方にご指導いただき、周りの方のサポートがあっていただけた賞です。論文を通すことがゴールではなくて今後未来をどう変えることができるのか、意義は何なのか、他の研究者にとってどう使えるのか、考える良い機会になりました。

-研究と料理界隈のお話が出ましたが、研究として成り立たせることと社会で実際に使われることの違いや難しさは感じていますか?

根本のテーマは一緒ですが、どこに意識を向けるかは違いがあると思います。パティシエの方と話してて面白いなと思ったのは、フラワーゼリーを商品として出すには3パターンぐらいの花びらを確実に作れるもの、作業や衛生面の関係で1回に30分ぐらい稼働して数個作れるものという要望でした。論文だと精密な花びらが何種類もできた方が良いし、大きいゼリーに大きい花があると見栄えがいいのですが、実際にスイーツとして食べるには大きすぎると教わりました。

食をテーマに研究をされている方は多くいますが、農学分野と比べると料理自体をテーマにしている研究は少ないかもしれません。今回は見た目がメインでしたが、研究と社会実装の掛橋となることも考慮し、味や食感もデジタルにデザインできたら面白いなと思っています。

-4月からは調理師学校に行かれているとのことですが、研究を実際に社会の役に立つものにしたいという思いからでしょうか?通学してみて刺激を受けたことはありますか?

プロジェクトに取り組んでいて、料理側からも考えていきたいというのはあります。今は工学系の分野にいるので、どうしても料理業界から見れば異分野ですが、自分から飛び込めばそこに壁を作らずにいけるかなと。今後、博士課程に進んでアイデアに詰まった時に「あの時調理師学校に行っておけば」と言い訳になるのも良くないという気持ちもありました。ほんとうに研究が嫌になったら淡路島でカフェアンドレストランをやってるかもです。笑

最近受けた授業では、食の世界でのSDGsの取り組みや商習慣を聞きました。今はこれが旬なんだ、じゃあこういうことが求められているのかな、とそこからアイデアが出てきます。様々な側面から見ることができるようになって、自分のやりたいことと社会的に重要なことがピタッとハマったら有意義だし、最高ですね。

-今後フラワーゼリーの応用としてどんなことを考えていますか。

介護食や病人食への応用を視野に入れています。例えば、食事が上手く飲み込めない嚥下障害のための誤嚥調整食は飲み込み易いペーストやゼリー状なので見た目を美しくすることが難しい。ムース食も食感が単調でデザインの自由度も低いのが現状です。しかし、食事を見た時に美味しさを感じられないと唾液が十分にでず、更に症状を引き起こしてしまうこともあるそうです。パッと見て美味しそうと思ってもらうことは重要だと感じています。ゼリーはゲルを使っていてムースと似ているので、この技術を活かして今まで美味しく食事をすることが難しかった方たちが食の時間を楽しめるような見た目も味も美味しい料理ができるのではと考えています。誰もが食を楽しめるインクルーシブ社会に貢献していきたいです。

-研究を通して、今後やって行きたいことを教えてください。

料理×テクノロジーの融合は従来の食の在り方を越え、未来の食事をより豊かにする可能性を秘めていると思います。双方の分野を理解することで社会へ還元できる価値がまだまだあると感じています。食は私たちの生活と密接に繋がっているので、作り手にも食べ手にも感動を与えるような未来の食のライフスタイル実現に向けて貢献したいです。社会に役に立つイノベーションを起こすために様々なことに飛び込んで新しいアイデアや挑戦を続けていきたいですね。

(関連サイト・SNS)
CHI’21 award page

Official site:https://www.makomiyatake.com/

Twitter:https://twitter.com/kema1015

Instagram:https://www.instagram.com/makomiyatake/

価値交換工学|Update: 2021.7.12