現在FabCafe Tokyoで開催中の「WOOD CHANGE Exhibition」に「Tsugite」を展示中の吉田博則特任研究員。作品に盛り込まれている研究要素や今取り組まれている研究についてお話を伺いました。

デザインのためのツール開発
そこから生まれる新たなデザインの可能性

-現在「WOOD CHANGE Exhibition」で展示されている作品「Tsugite」について教えてください。

「Tsugite」は、伝統構法の継手・仕口の組み方に着想を得たプロジェクトでMaria Larssonが主著の学術論文として発表しています。元々素材と素材をくっつけることに興味があり始まったプロジェクトです。木造建築など木を素材とする場合、必ず問題になるのがどうやって木をくっつけるかということなのですが、組み木のなかでも線状につなげるのが「継手(つぎて)」、それ以外のコーナージョイントなどを「仕口(しぐち)」といいます。継手は、何百年も前に木が少なる中、何とかして長い材料を手に入れたいということで先人たちによって発明されました。組み方にこうした知恵を投入しているところがポイントです。

-日本科学未来館では、「Swirled Branches」という作品が常設展示されていますよね。同じ手法なのでしょうか?

同じ”ものとものをくっつける”という作品ですが、「Tsugite」は組む部分に着目したのに対し、「Swirled Branches」は複雑に曲がった形状や異なった形状のものを組むということに視点を置いた作品です。

-デザイナーであり、デザインが完成されるのに必要なツールの開発をされているということなのですが。

”作品を作っている人=デザイナー”というイメージがあると思いますが、デザイナーのためのツールを開発する人たちもまた、デザインをやっていると言えます。例えば、インテリアデザイナーは製作過程でコンセントの位置を決めたりしますよね。そこで手助けするツールがあれば効率が上がったり、簡単に統一感が出せたりするようになるわけで、そのツール作成もデザインです。そうしたツール作成のアウトプットから、研究としての新規性も主張できたらと思っています。

-Tsugiteは作品としての側面も持ちつつ、それを作成するためのツールもまた成果なんですね。研究として「木工継手・仕口」に取り組まれ10月に学術リリースをされていれていますよね。研究の観点から、今回の作品に盛り込まれている要素を教えてください。

デザインをする人たちが他の人と差を出すためのポイントとしてよく言われているのが ”ディテールをどう処理するか”です。例えば、金属と木など違う素材を組む時にくっつくところのディテールがどう見えるか。同じような部分にこだわってる人たちには「Tsugite」はパワフルなツールになると思います。

ディテールの処理には経験や勘が重要な分野になってきますが、「Tsugite」は誰でも簡単に複雑なジョイントを作れるようにしたところがポイントです。デザインのためのツールであるとかデザインが完成するために必要な要素にこだわって最新技術を用いてきたのが評価していただいている部分かなと。

「Tsugite」(出典:http://ma-la.com/tsugite.html)

日本科学未来館で展示されている「Swirled Branches」(出典:http://ma-la.com/tsugite.html)

身の周りのものを再構成することで新鮮さが出る。
そこに価値が生まれるということが大事

-Swirled Branchesでは素材全体の形状や使われていない素材について、Tsugiteでは素材と素材の接続部に着目されていますが、他にも気になっているものはありますか?

そうですね。建築家という概念が出る前、日本では宮大工が西洋ではマスタービルダー(大工の棟梁)がいました。適材適所という考え方なのですが、彼らはすでにある材料をみて、その場で配置を計算して組み立てていったんです。計算技術を使ってそういうことがまたできるようになれば素材の有効活用などに使える概念だと思います。

-youtubeで「BranchConnect」という子供向けのWSを拝見しました。様々な活動をされていますが、どんな思いがあって行っているのか教えていただけますか。

研究の大きな格子があって、なぜコンピュータ計算機を使うのかということは常に考えているのですが、わたしの場合、コンピュータを使うことで、今まで難しいとされたことを広く一般に開放していきたいという思いがあります。老若男女、5,6歳のお子さんでも何かデザインできたり、逆にそうした人たちの方が、囚われないアイデアを出してくるので面白かったりしますね。

-自身の研究を社会実装していくにあたり考えていることは?

実際、研究者がひとりで社会実装まで行うのは難しく、周りの協力が必要です。なので、まずはきちんとサンプルを作り見てもらうことからですね。「WOOD CHANGE EXHIBITION」では、ジョイントの部分が展示されているので一見作品っぽくはないんです。ものをつくる人たちがそれを見て、これをデザインしたツール使ってみたいと思ってくれれば大成功。そのツールからさらに新しい形が生まれたら社会実装につながると言えますね。

直角に木を組む方法はたくさんあったけどよくみたらちょっと違う。そういう新鮮な発見を提供できるといいですね。ありふれた素材を使って、人それぞれが考えたものを自分で簡単に形にできるといいなと思います。

-価値交換工学の視点から今後やっていきたいこと意気込みを教えてください。

ぱっと見面白く無いもの、見向きもされていないものに少し手を加えることで驚きや新鮮さを提供できるとそこに価値が生まれるということが大事だと思います。身の回りにあって見方が定着してしまったものに対して、何かしらの操作ができるといいですよね。例えば、ツールを使用することでガラスと鉄をくっつけられる、壊れている部分が3Dプリンタで直る、といった部分を価値として提供できればと思います。現在はLAに展示するための作品を制作中です。現地の素材で作品を作ることを考えていて、展示を盛り上げていきたいです。

Information(https://www.riise.u-tokyo.ac.jp/news-vxe-exhibition-yoshida/)
期間:12月19日(土)〜1月11日(月)
平日 8:30-20:00 / 土日祝 10:00-20:00 (2020.12.16現在)
入場料:無料
場所:FabCafe Tokyo
東京都渋谷区道玄坂 1-22-7 道玄坂ピア1F
FabCafe Kyoto @京都(1月15日〜1月30日)、FabCafe Nagoya @名古屋(2月2日〜2月15日)にも巡回予定。
https://awrd.com/award/woodchangeaward
https://fabcafe.com/jp/events/tokyo/20201219_wood_change_meetup

<関連リンク>

Tsugite: Interactive Design and Fabrication of Wood Joints
http://www.ma-la.com/Tsugite_UIST20_reduced_file_size.pdf

日本科学未来館
https://www.miraikan.jst.go.jp/exhibitions/future/digitallynatural/

価値交換工学|Update: 2021.1.13